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大阪家庭裁判所 昭和46年(少)8440号 決定

少年 I・O(昭二六・一一・一九生)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

〔非行事実〕

少年は、

一  昭和四四年一月二八日午後一〇時三〇分ごろ、奈良市西大寺町近鉄ショッピングセンター西側路上において、仙波東彦所有の普通乗用自動車一台(神戸五せ三五-二二号、時価六五万円相当。但し、車中にステレオパツク四個・ヘルメット一個・長靴一足・毛布三枚・自動車運転免許証一通・名剌・書類が置いてあつたもの。送致事実としては「現金六万円」も車中に置いてあつたとされているが、これを認めるに足る証拠が不十分であり、当裁判所としては上記の限度の認定にとどめる)を窃取し(自動車盗)、

二  和田芳郎(二二歳)と共謀のうえ、同月三一日午前〇時四五分ごろ、奈良県大和郡山市長安寺町墓地横空地において、石田国太郎所有の普通乗用自動車一台(大阪五そ一一-五五号、時価三〇万円相当。但し、車中に現金七〇〇円が置いてあつたもの)を窃取し(自動車盗)、

三  杉本憲一(二〇歳)と共謀のうえ、同年二月一二日午後一〇時三〇分ごろ、同市番条町番条公民館前路上において、平瀬一男所有の普通乗用自動車一台(奈五ぬ一二-四一号、時価四〇万円相当)を窃取し(自動車盗)、

四  杉本憲一と共謀のうえ、同月一四日午後七時三〇分ごろ、静岡県浜松市平田町八三番地先路上において、坂本昌克所有の普通乗用自動車一台(浜松五な三七-九四号、時価約七〇万円相当。但し、車中に自動車運転免許証・自動車検査証各一通が置いてあつたもの)を窃取し(自動車盗)、

五  杉本憲一と共謀のうえ、翌一五日午後〇時三〇分ごろ、三重県四日市市末広町一二番七号中部資村株式会社裏路上において、小林新悟所有の軽四輪乗用自動車一台(三八あ九四-九七号、時価二五万円相当。但し、車中に男物コート一着が置いてあつたもの)を窃取し(自動車盗)、

六  杉本憲一と共謀のうえ、翌一六日午前〇時三〇分ごろ、奈良県大和郡山市朝日町一番二二号郡山第四分団格納庫前路上において、井上清所有の普通乗用自動車一台(奈五、七三-八一号、時価約三〇万円相当)を窃取し(自動車盗)、

七  杉本憲一と共謀のうえ、同日正午ごろ、大阪府柏原市国分市場二丁目五番九号丹葉圭一方裏庭において、同人所有の軽四輪貸物自動車一台(泉六さ一五-二一号、時価約一五万円相当)を窃取し(自動車盗)、

八  杉本憲一と共謀のうえ、同月一八日午後二時一〇分ごろ、奈良市菅原町近鉄あやめ池遊園地駐車場附近路上において、松倉茂所有の電気オルガン一台(時価三万六千円相当)を窃取し(車上ねらい)、

九  杉本憲一と共謀のうえ、同月二〇日午後〇時三〇分ごろ、同市山陵町番地不詳路上において、坂口保夫所有の普通乗用自動車一台(奈五な八〇-五五号、時価約二〇万円相当)を窃取し(自動車盗)、

一〇  昭和四六年四月二八日午前一一時三〇分ごろ、大阪府東大阪市相田一二七番地先路上において、琴平能弘所有の普通乗用自動車一台(大阪五五さ三七-三八号、時価七〇万円相当。但し、車中にゴルフバツグ一個・ゴルフクラブ八本が置いてあつたもの)を窃取し(自動車盗)、

たものである。

〔適用法条〕

非行事実一・一〇につき、刑法二三五条。

同二ないし九につき、同法六〇条、二三五条。

〔処遇〕

一  少年は、別紙記載の如き保護歴を有し、昭和四五年一二月三日特別少年院(河内少年院)を仮退院して保護観察(二号観察)を受けることとなつて後も従前からみられた自動車盗(乗り捨て)がやまず、昭和四六年七月一日奈良家裁において自動車盗を内容とする窃盗保護事件で試験観察(在宅)に付されるもその直後にまたもや自動車盗を累行し、同年八月五日同家裁において二度目の特別少年院送致決定を受け、翌六日再び河内少年院に収容されることとなつたものであるが、本件は、右収容直後に少年が同少年院関係者に対して行なつた余罪申立を端緒として種々捜査がなされて明らかになつてきたいわゆる「余罪」である(本件非行事実一ないし九は別紙記載の昭和四四年四月九日付中等少年院送致決定以前に敢行された余罪であり、同一〇は上記の昭和四六年八月五日付特別少年院送致決定以前に敢行された余罪である)。

二  少年は、前件の調査・審判の際にも余罪の有無につき問われているが、そのときには、自己の審判を有利に運びたいと考えたほかすでに妻子がいるという共犯者をかばつてやりたいとも考えた結果本件各余罪を秘していたのであつたが、河内少年院への収容後にあれこれと考えた結果、〈1〉「共犯者の線などから本件がバレルかもしれない。しかも自分は間もなく満二〇歳になる。その後に至つて本件各余罪が発覚するとなると刑事処分となり前科もついてしまうだろう。それならまだ少年であるこの時点で自分から進んで余罪のあることを話しておいた方がましだ。ひよつとしたら少年院だけですむかもしれないし、仮に刑事処分ということになるとしてもいくらかは軽い処分ですむのではないか」といつた如き打算的意図と、〈2〉「刑事処分ということになる危惧もあるが、この際全部の余罪を話して過去をすつきり清算しておきたい」という真摯な更生意図とがあいまつて本件各余罪の申立に及んだものであると認められる。

三  本件の送致機関である検察官においては「刑事処分相当」との処遇意見を付しており、少年の年齢・保護歴・本件非行事実の内容(手口・回数・結果など)などからすれば、検察官の右処遇意見も一応はもつともなこととして理解しえないものではないといえよう。

しかしながら、少年はこれまで約三か月余にわたる河内少年院での収容生活において自ら進んで同少年院での教育を受け入れていこうとする積極的な姿勢を示しており(反則事故などもみられない)、保護者(実母、五〇歳)も本件各余罪の存在を知つて「まだそんなにあつたのか」と歎きつつも一方では少年の自発的な余罪申立を更生意欲のあらわれと受けとつて喜こんでいるなど少年の更生を実現せしめていくことにつき協力的な姿勢を示しており、少年・保護者のいずれもが同少年院で矯正教育を受けていることに対してひとつの定着志向を示している現況にあると認められ、これを評価してか、同少年院関係者においても、少年に対してはこのまま同少年院で処遇していくことが相当であるとの判断に立ち、当裁判所の調査・審判に際してもその旨の「参考意見」を披瀝している実情にあるというのであるから、合計一〇件に及ぶ本件非行事実のうちの九件までもが約二年一〇か月前(昭和四四年一月~二月)にみられた非行であるといつた如き事情をも考えあわせてみるときは、いまこの時点でなお少年を刑事処分に付さなければならないというまでの必然性はこれを見い出し難いといわなければならないであろう。

四  そこで、さらに進んで当裁判所が今回とるべき措置につき検討してみるに、それが不処分決定(別件保護中)であるというのであつてみれば、〈1〉少年があと三日後である昭和四六年一一月一九日に満二〇歳に達するという実情にあることとて、本件につき「刑事処分相当」という処遇意見を付している検察官において、その当否は別として、少年の成人後に改めて本件に基づく公訴を提起するということもありうることとして予測しておかなければならないというべく(少年法四六条・二三条二項の問題-不処分決定には爾後における刑事訴追を禁止するまでの効力はないとの見解-審判不開始決定についての最高裁大法廷昭和四〇年四月二八日判決〈刑集一九巻三号二四〇頁、家裁月報一七巻四号八二頁〉など参照)、さらには、〈2〉少年が本件各余罪を申立てるに至つた心情に上述の如き打算的な一面がみられたこととて(余罪申立の機会はこれまでにも何度もあつたはずである)、このような打算的心情をそのまま承認してしまうことによつてもたらされることのあるべき非教育的結果ということも憂慮されるというべく、これらの諸点に鑑みるときは、いまこの時点において本件非行事実についての刑事訴追禁止の効力(少年法四六条)を確保して少年を上述の如き訴追の危惧から脱却せしめてやるとともに厳格な処分を確保して少年に上述の如き打算的心情の否なることを自覚せしめておくことが相当であるというべく、それがまた現在みられる少年自身の河内少年院への定着志向をより確実ならしめて今後における矯正教育の実を挙げていくゆえんでもあると認められる。

以上、諸般の事情をかれこれ考えあわせてみるとき、この際は少年を重ねて特別少年院に送致する旨の保護処分決定を実現せしめたうえ河内少年院における少年の矯正教育に実効あるを希求していくことが相当であると思料される。

(その場合、「本決定の執行により少年を収容すべき特別少年院の指定」「河内少年院における処遇段階のとり方」など本決定と前回の特別少年院送致決定との競合から生じる若干の問題点がみられるが、これらについてはさしあたり執行機関側の配慮に期待することで運用上の解決をみていける見込である。すなわち、本決定に先立つて当裁判所が河内少年院側に確認したところによると、同少年院が関係諸機関〈大阪矯正管区長~大阪少年鑑別所〉との連絡調整をとつた結果、いまこの時点で重ねて少年に対する特別少年院送致決定があつたとしても、少年を河内少年院以外の特別少年院に収容したりしないで新旧両特別少年院送致決定を暫時併存的に執行していく形式において少年を引続き河内少年院で処遇していくことが可能な実情にあるということである。当裁判所としては、今後における少年自身の河内少年院での成績などをも見きわめたうえで然るべき時点において競合処分の調整〈少年法二七条二項〉をはかつていくこととしたい)。

[むすび]

よつて,少年法二四條一項三号・少年審判規則三七条一項・少年院法二條四項を適用して,主文のとおり決定する。

(裁判官 栗原宏武)

別紙 少年の保護歴(いずれも奈良家裁におけるもの)

番号

処分年月日

処分

事件

備考

四一・一〇・五

試験観察(在宅)決定

昭和四一年少第一四九号・第一八一号窃盗保護事件

四二・一二・二一

保護観察決定

上記事件に昭和四二年少第八五九号窃盗保護事件を併合したもの

奈良保護観察所

四三・三・二九

審判不開始決定 (別件保護中)

昭和四二年少第一〇九八号窃盗保護事件

四四・二・六

不処分決定 (別件保護中)

昭和四三年少第九八四号窃盗保護事件

四四・四・九

中等少年院送致決定

昭和四四年少第三二三号窃盗保護事件 (身柄)

四四・四・一一加古川学園入院

四四・八・一八同園逃走

四四・四・一二

不処分決定 (別件保護中)

昭和四四年少第三五五号窃盗保護事件

四四・一二・九

特別少年院送致決定

昭和四四年少第四七一号第一一三三号・第一一三四号・第一一三七号・第一一三人号・第一一四〇号・第一一六九号窃盗保護事件 (身柄)

四四・一二・九河内少年院入院

四五・一二・三同院仮退院

四六・七・一

試験観察(在宅)決定

昭和四六年少第四八五号窃盗保護事件 (身柄)

四六・八・五

特別少年院送致決定

上記事件に昭和四六年少第六〇〇号・第一〇七六六号窃盗・道路交通法違反保護事件を併合したもの (身柄)

四六・八・六

河内少年院入院

四六・一〇・五

少年院法一一条一項但書による院長権限の収容継続決定

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